猪飼周平氏のツイートに触発され、稗田健志氏の書評に感謝する

病院の世紀の理論

病院の世紀の理論

『病院の世紀の理論』で名高い猪飼周平氏の9月19日のツイッターに以下のものがあった。

「かつて指導教員に、「歴史は説明しない」と言われたことある。これはhowに関する学問(歴史学)とwhyに関する学問(社会科学)との間に厳然たる区別があることを意味する。本年に入って大部の病院史が相次いで刊行されている今、歴史的資料を使う社会科学とは何かを考え直すことが必要だろう。」

それを受けて僕は、

「どのようにして起こったのが知りたいのであって、因果関係なんか興味ないのかもしれない、ひょっとして。 」

とツイートした。誤解を恐れずにいえば、因果関係の「説明」ではなくて、過程の論証の方に関心があるのではないかということである。にしても自分は歴史家ではないので、史実を提示するだけに興味があるのではない。

そこで、稗田健志さんが拙著を書評してくれたレヴァイアサンの51号を思い出した。稗田さんが指摘するのは、

「能力が高く、上位政府からの監督が中程度の地方政府の存在と、普遍主義的福祉国家との間の因果関係の論証に主眼があるのではなく、日本の医療保険制度の展開のなかで地方政府の利益表出が重要であった点を指摘したいだけであれば、セラーズらの議論をそれほど強調する必要はなかったのではなかろうか。経路依存性の議論のなかで、はじめは「偶然」に保険者として選択された市町村が国民健康保険制度を執行していくなかで政治的・行政的能力を蓄え、中央政府における医療保険政策に影響をあたえるようになったという論理のほうが、二つの異なる理論体系を並置するよりもシンプルですっきりとした議論になったと思われる。」(176ページ)

たしかに、因果関係よりも、どのようにして、に興味があるのかもしれないことを、書評者が描き出していてくれるようだ。稗田さんに感謝したい。ただ、猪飼氏のいう「歴史的資料を使う社会科学」とはいったい何かを考えることは重要な課題である。

福祉国家の制度発展と地方政府 --国民健康保険の政治学 (関西学院大学研究叢書)

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