政治における利益の不確定性について

 最近の政治学の議論では、政治家や利益集団の利益を、外から客観的に確定し、そこから演繹的な議論を展開して、仮説を作り、それをデータと突き合わせて、仮説検証を行うものが多い。しかし、その利益がそもそも不確定なものであり、その文脈次第で確定されていくものであれば、このような仮説検証が現実を説明していることにはならないかもしれない。

 秋吉・伊藤・北山の『公共政策学の基礎』の利益の章でも、客観的な利益と主観的利益という論争を紹介しているが、この議論にかかわってくる。

 そこで、Suzanne Berger教授の業績を讃える論文集、The Politics of Representation in the Global Age: Identification, Mobilization, and Adjudicationを読む。その中からPeter Gourevitch氏による序文の一部を超訳的に紹介。

 

この論争の中でバーガーは、利益集団が取る政策スタンスについて通常の理解方法に戦いを挑んだ。これらのスタンスは、集団の経済における「客観的な」状況からは導くことができないというものである。その状況は、Frieden, Rogowski, Hiscoxらの著作によって、”open economy macro” として呼ばれるようになっているものである。これらの見解に対する批判を、私はPolitics in Hard Timesで紹介したが、いかにして利益集団間の連合が形成されるか、政党や政治構造などの諸制度が、いかにして関連する相互作用を作り出すかということの重要性を強調するものである。私は利益の定義は、勝利のたしかさによって影響されるとし、それゆえ、それは相互作用的であると論じた。

 バーガーはこの批判をさらに推し進めた。不確定性は、グループの相互作用だけでなく、その当初のスタンスの特徴でもある。 バーガーにとって、客観的な経済状況は多様に解釈することができるため、ある特定のスタンスが最初に採用されるに至るまでの説明が必要となる。

 例えば、初期のフランス社会党は、自由貿易が食料や消費財の価格を下げるという理由で自由貿易に賛成することもあり得たし、外国の競争者から仏蘭西人の雇用を守るために自由貿易に反対することもできた。自分たちの利益が曖昧な場合、何が最善であるかという「情報の手がかり」を必要とし、その手がかりとして、政治的な味方や敵がとる立場を参考にする。社会党は、当時、他のイシューで同盟関係にあった諸集団が自由貿易派であり、政治上の敵が保護主義陣営に属していたために、自由貿易に賛成したのである。

 

Gourevitch, P. (2014). Foreword. In P. Hall, W. Jacoby, J. Levy, & S. Meunier (Eds.), The Politics of Representation in the Global Age: Identification, Mobilization, and Adjudication (pp. Xv-Xxii). Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/CBO9781139794961.002