「原因の効果」effects-of-causesと、「結果の理由」causes-of-effects。

社会科学のパラダイム論争: 2つの文化の物語

社会科学のパラダイム論争: 2つの文化の物語

 本書も、翻訳者の方からご恵投いただきました。ありがとうございます。本書の51ページには

 定量的研究者と定性的研究者がどちらも関心を寄せるのは「何がYの原因なのか」という一般的な問いに答えることである。だが、その問いは異なる形へと言い換えられる。定量的研究者は「原因の効果」アプローチを用いて、問いを「母集団においてXはYにどの程度の平均効果を与えるのかという形へと言い換える。(中略)これに対して、定性的研究者は、「結果の理由」アプローチを用いて、問いを「単一あるいは複数の特定事例において、Yを説明するXsは何か」という形へと言い換えることが多い。(p.51)

 「原因の効果」とはeffects-of-causes の訳であり、「結果の理由」とはcauses-of-effects の訳である。英語では、うまい具合に言葉をひっくり返したものになっているが、訳文はわかりやすさを優先したのであろう、違う言い方となっている。実際にそのほうがわかりやすくなっている。この点、翻訳の苦労が目に浮かぶ。

 さらにわかりやすく言えば、前者は因果効果の分析であり、後者は因果理由の分析とも言えるかもしれない。

 定量的分析は因果効果を測定しようとする。先日の同志社大学の研究会では、こちらの研究のスタイルを大阪大学の松林准教授がわかりやすく説明してくれた。彼らにとっては、average treatment effect (ATE) をどれだけセレクション・バイアスなく測ることができるかが勝負になっている。まさに平均効果の測定である。

 これに対して、後者の場合は、東京大学前田健太郎准教授が、「事例研究の発見的作用」『法学会雑誌』第54巻1号(2013年)で明らかにしているように、それまで誰も考えたこともないような新しい答えを提示することができるかが勝負となっている。

 このように、同じく『原因を推論する』(久米育男早稲田大学教授)といっても、2つの問いと方法がリンクする形で存在しているのである。『社会科学のパラダイム論争』は、それを2つの文化といっている。A Tale of Two Cultures というのが原題である。